東京高等裁判所 平成11年(う)863号 判決
被告人 アスガル・ロトフィー
〔抄 録〕
一 事実誤認(ないし法令解釈、適用の誤り)の主張について
《中略》
所論は、要するに、被告人が本件送金の際に用いたモハマド・ナヒフの名義は被告人の通称として日常生活の他の場面でも用いていた名称であり、また、ピエダ・ソラジャ・レンドンの名義は被告人と同棲していた女性のそれであり、送金先のマヒンドクテ・アルバビ・ゴムシェは被告人の母であるから、客観的に、財産の帰属主体を誤らせる効果が認められないから取得についての「事実を仮装し」に該当しないし、かつ、その「隠匿」の効果も認められないから同項にいう「隠匿」に該当しない上、被告人の本件送金行為の意図は、出稼ぎに来日した被告人が母国に残してきた家族や帰国後の自己の生活費等の送金であって、主観的にも財産の「隠匿」を図ったのではないのに、原判決は同法九条一項にいう「事実の仮装」及び「隠匿」に該当するとの誤った判断をした、というのである。
検討するに、原判決がその(補足説明)の項で認定しているとおり、被告人は、イラン・イスラム共和国のアスガル・ロトフィー名義の正規の旅券に加えて、自己の写真を貼付したベルギー王国籍のモハマド・ナヒフ名義の偽造旅券など数通の偽造旅券を所持していたほか、同様の偽造国際運転免許証を三通所持するなどし、通称名も「スズキ」、「マイケル」、「アリ」、「モハマド・ナヒフ」などを場面に応じて多数使い分けていたこと、ピエダも不法残留者で外国人登録もしていない事実などが認められ、所論のいうような送金名義人から送金された金員が被告人に帰属することを容易に知り得るといった状況ではなかったこと、また、ICPOイラン・イスラム共和国に照会した本件海外送金先等に関する捜査に対しても何らの回答がないことなど、被告人の本件海外送金の行方についての捕捉、追及が困難な状況となった事実も認めることができる。加えて、被告人自身が、「警察に捕まれば、儲けた金も没収されてしまうのでイランに送金しておけば大丈夫と考えた」旨や「規制薬物を売って得た金であることを隠すために、第三者名義による送金を行った」旨を捜査官に対し供述しているのであって、被告人は事実認識に欠けるところがないことはもとより、本件送金が意味するところも十分理解していたと認めることができる。そうすると、被告人の本件第三者名義を用いてのイランへの送金行為が、麻薬特例法九条一項にいう不法収益等の取得についての「事実の仮装」であり、かつ、「隠匿」にも該当することは明白である。
(米澤敏雄 岩瀬徹 沼里豊滋)